よこと病気と○○と

1人の人間として、ありのままをツラツラと。お布団と社会の間から

私と病気と変わった田舎

 

帰れば、眠れると思っていた。

 

 

朝7時、隣で起き上がる音がする

私はそこではじめて眠りにつく

 

午前11時、雷じじ様の大声がする

耳が随分遠くなった雷じじ様は大音量で

私を揺さぶり起こす

 

眠い目こすって正午、階段を降りれば

怒涛のばば様の憎悪の波にのまれそうになる

じじ様のことでたまった疲労は

私に向けられた

 

 

田舎に帰れば、眠れると思っていた

 

でもそこに待っていたのは

変わってしまった田舎だった。

 

じいちゃんは認知症が進んでいた

耳が随分遠くて、家の中は常に大きなテレビの音がしていた。

 

ばあちゃんはやっと終わったひいばあちゃんの介護もそこそこに、じいちゃんの相手をしていた。

まるで「悲劇のヒロイン」みたいに、

私に自分の話をした。

 

そしてことあるごとに、

私の異常性を突きつけた。

 

「車に乗れんけえな」

 

何度も何度もそう、繰り返した。

 

そして「自分は忙しい」のだと

「だらだらする事は醜いこと」だと

幾度となく、突きつけられた。

 

私はここに、休みに来ているのに。

まるでだらだらするのが「いけないこと」だとでも言うように。

 

 

悪気はないのはわかっていた。

むしろ2人をいたわるのが私の役目だとも

知っていたつもりだった。

 

それでも、あそこは東京より

もっともっともっと、息苦しかった。

 

家の中はいつも寒くて

ばあちゃんは愚痴をこぼし続け

じいちゃんは大きな音を流し続けた

 

私はいつもより、薬を多く飲んだ。

 

 

そして私は逃げるように電車を乗り継ぎ、

尾道へ来た。

日帰りのつもりだったが、急な思いつきで

ゲストハウスへ泊まっている。

 

ばあちゃんは心配していた。

 

東京にいる母さんと父さんから連絡がきた

母さんからの電話を取ると

私は泣いてしまった。

 

ばあちゃんのこと、じいちゃんのこと

眠れなくなったこと

心が苦しいこと

早く東京に帰りたいと思ったこと

 

私は全部、母に話した

初め怒り口調だった母も、途中から声色を変え

そうかそうかと話を聞いてくれた。

 

 

ゲストハウスに泊まってみると

驚くほど心地がよかった。

 

「私に必要なのはこれだった」と

やっと気づいた。

 

一人、夜道、港の造船所、共同キッチン

よく泡立つシャンプー

そして、静寂

 

 

五感を十二分に使って息をした

 

夜の港町の風を、お腹いっぱいに吸い込んだ

 

 

変わっていくことがある。

 

それは当たり前で、どうしよもなくて

誰も悪くないことだ。

 

誰も悪くないからこそ、みんなその悲しみや不安をどこにぶつけたらいいのかわからない。

 

そうして糸が緩み弾けては

誰かを傷つけ、また悲しみばかりが増していく。

 

ばあちゃんも、じいちゃんも、

そしてきっと私も

誰も、悪くなかった。

 

 

私が変わってしまった時だって

きっと本当は誰も悪くなかったんだ。

 

母さんも父さんも、そしてきっと、私も

 

 

私は変わってしまった人間だ。

 

だから変わってしまった本人の痛みを

分かち合うだけでなくて

そこにできる誰のせいでもない「悲しみ」を

受け止められる人に私はなりたい。

 

変化は時の流れが解決してくれるけど

そこに広まっていく悲しみを

家族や友達に伝わる誰のせいでもない悲しみを「苦しかったね」と受けられる人でありたいと

 

初めてそう、思ったのです。

 

 

田舎は、苦しかった

変わってしまっていた。

 

ねえそれでも私は

田舎が、

ばあちゃんが、じいちゃんが

だいすきだよ。

 

 

今日はこのへんで

 

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