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よこと病気と○○と

1人の人間として、ありのままをツラツラと。お布団と社会の間から

わたしと病気と春

 

 

桜を見ても心ふるわない

 

美しい言葉など一寸もでてこない

 

咲き誇るピンクを見ては、心が苦しくなり

じわり涙が、こみ上げる

 

花びらは風に吹かれ

瞬く間に空に舞い上がり

ゆらりふわり、地に堕ちる

 

うまく、笑えない

 

桜を見つめ自転車を漕ぐ人も

手を繋ぎ桜を眺め歩く老夫婦も

みんなどこか、幸せそうで

 

多分私が今ここいらで一番

悲しい顔をしているのではないか

 

春など、こなければいい

 

昔誰かが「日常」は誰しも平等に

持っている

 

 

と言っていたけれど

 

平等なものなど、ないと思っていた

 

だけど今の私に

季節だけは、どこまでも無慈悲に平等であった

 

望もうと望まないとも

春はくる

 

春というのは不思議な季節で

幸福の匂いがそこら中に満ち満ちている気がする

 

昔の出会いや別れを、思い出しているわけではないのにどうしてこんなにも

胸が熱くなる

 

今の私に

春は少し、朗らかすぎた

 

誰がこんな春を予想しただろうか

誰がこんな春を望んだだろうか

 

どうして道行く人はみな、

幸福の香りがするのだろうか

 

どこからともなく転がり込んできた

一枚の桜の花びらは

いったい私に何を運んでくるというのだろうか

 

 

 

グレーのジャンパーを着た中年の男性が

公園の小さな球場のベンチに座っている

 

手元には缶のビールが置いてあり

顔はやつれ、もうすでにほんのり赤い

父親」のようなトートバッグは

少しくたびれていた。

 

球場では、低学年くらいの子供たちが

半袖にキャップをかぶりピッチングの練習をしている

 

誰かの父親だろうか

でも保護者はみな、一階のベンチ席で

愛しい我が子の様子を目を柔らかくしながら見つめている

 

彼はうつむき気味に酒をすする

 

彼を見て私は、

春が彼みたいな人ならいいのにと思った

 

カンッと打たれた野球のボールは

軟式ボールだろうか

春の追い風に負けファールの方は吸い込まれてゆく

 

それからほどなくして

試合の途中で春のような彼は

くたびれたトートバックをもちあげ

のらりくらり立ち上がり

背中を少し丸めたまま球場の階段を降りて行ってしまった

 

球場の子供達は

きっとこの後、泥だらけになった体を

温かいお風呂で丁寧に洗い落とし

 

母親の作った美味しいご飯を食べ

試合のハイライトを自慢げに話し

すごいねと褒められるのだろうか

 

そうしてふわふわの布団に

するり入り込み

眠りにつくのだろうか

 

あの彼は、どうなのだろうか

あの春みたいな彼は

 

丸めた背中が、わたしの目の奥でやけに印象的に残っていた

 

ひゅっと吹いた風が、思った以上に冷たく

フレアのスカートからのぞいている

貧相な私の足首は鳥肌を立てていた

 

帰ろう

 

私は立ち上がり

手元にあったカゴのトートを持ち

少し背中を曲げながら階段を降りる

 

球場ではまだ、子供たちが野球に夢中になっていた

 

春はもう少しだけ先なのかもしれない