よこと病気と○○と

1人の人間として、ありのままをツラツラと。お布団と社会の間から

私と病気と「先生へ」

 

先生、あのね

 

 

私、大学に入って教師を目指しました

バイトは塾の講師をしてるといったら

先生は「まさかお前がな」って顔で

驚きながらも、どこか嬉しそうでしたね。

 

そりゃそうだよね

高校の時からあんなに問題児だったもんね 

 

怪我をしてそれまで全てだった部活を奪われて

学校に行けなくなった2年生

 

初めて発作を発症して

受験を諦めかけた3年生

 

それでも私、先生を目指したの

こんな行きにくい学校なんて、

1つでも減らしたくてさ

 

「学校なんて行かなくてもいいよ」

そうこっそり言ってあげあられるような

先生になりたかったの。

 

 

先生、あのね

 

 

私頑張ったんたやけど、やっぱり、だめだったよ

私の体が、先にだめになっちゃった

 

なにもなくなっちゃったの。

 

夢も、友達も、大学も、

 

普通も、光も、色も

 

なにも、なくなってしまったの。

 

先生世界は、どうしてこんなに残酷なんですか

 

 

 

先生、あのね

 

 

私今日、受験の合格祈願に行ってきたの

 

後輩じゃない、他の誰でもない

私のための合格祈願

 

明日が、合格発表なんです

 

落ちたら私

私たぶん、またなにもなくなっちゃうの

 

私、ギリギリのとこにいました

だから必死こいて神様にお願いしに行ったんだよ

 

でもね

目を閉じたら、私の願いは一瞬に

大好きな彼女の笑顔が浮かんでしまったよ

 

ねえ、先生

この子がいたから

私、ここまで強くなれました

 

ねえ、先生

私はクズで、できの悪い子で

先生になんて立派な人にはなれないです

 

でもね、先生

私は私以上に大切な人ができたことが

 

心から、嬉しいんです

 

 

彼女はバカで全然うまく生きれなくて

それでも人のために泣ける

優しい子なんです

 

サヨナラの時はいつも優しい眼差しを

暖かい手の温もりを

 

遠くにいる時は

寂しさを、嫉妬を、溢れんばかりの愛情を

じんわり光を滲ませてくれるんです。

 

彼女は教えてくれました

私の言葉に救われてる人が確かにいること

自分の身をもって証明してくれました

 

 

ねえ、先生

 

私は、私はなにもない人間です

徳の高い言葉も

誰かを引っ張る強い光さえ

持ち合わせていやしないんです。

 

でも

弱さを恥じることなく

さらけ出すことだけはできるんです。

 

涙を、隠さずこぼすことはできるんです。

 

 

世の中にはそれが

できる人とできない人がいると知りました

 

そして私は、それができる人らしいのです

 

だからね、私

弱さも涙も包み隠さずここに置いていきます

 

 

君の弱さを、私はどうしたらいい

 

豊原エス

 

先生私はね

 

「あなたの弱さは、私が隠してあげる」

 

そうできる、人でありたいです。

 

 

 

先生、あのね

 

私は落ちても、それでもいいです。

 

それより彼女が苦しみに潰れ

落ちていってしまう方がよっぽど、怖いんです

 

 

偽善に聞こえると思います

結局人は、自分が一番可愛いです。

 

 

私も私が落ちるのは

ほら、今これを打つ手が震えてるように

すごく怖いです。

 

涙は果てしなく

名前の無い不安がこみ上げます

 

 

ねえ、先生知っていますか

 

何度も奪われる
苦痛や惨めさ、歯がゆさを

 

私は、知っています

 

人は全てを奪われ

なにもなくなってしまったとしても

 

必ずまた誰かが、与えてくれるという事を

 

 

だからもしも、

またここで私が落ち

なにもなくなってしまったとしても

 

きっと彼女が

 

私に与えてくれると信じているんです

 

信じて、いるのです

 

 

 

瞳を閉じれば

あなたが、まぶたの裏にいる事で

どれほど強くなれたでしょう?

 

あなたにとって私も、そうでありたい

 

そうで、ありたい。

 

 

ねえ、先生

 

 

私はなにをやっても

周りと同じようにできなくて

いつも何かを、無くしてしまいます。

 

何度も何度も打ちのめさせれては

何度も何度も這いつくばって

心は確実に、だんだんと、すり減っていきます。

 

それでいつか

自分のために立てなくなったのなら

 

その時は

 

 

私は誰かのために、立ちます

 

先生、これが私の生きる道です。

 

先生、私は泣きながらも笑っていたい

 

先生、私は

 

 

私は、それでもなにも諦めていません。

 

 

 

春に、会いましょう

 

それでは、また。

 

 

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photo by takayanagi

私と病気とあの胸元

 

 

彼のことは、もう何も覚えてはいなかった

 

ただ今日の風が生ぬるかった事とか

港の潮が引けていた事とか

観覧車が不気味にそびえ立っていた事とか

 

そんな事しか思い出せなかった。

 

 

胸板

 

唯一私が覚えている彼のパーツだった

 

ああなんて、安心感のある胸元だろうと思った

 

薄いグレーのニットの上からでも

はっきりとわかるそれは

私にいいようない安心感を与えた

 

引力みたいだと思った

あそこに飛び込んだらどんなに心地いいだろう

きっと世界の汚いものすべてから

守ってくれるだろう

そんな気さえした

 

 

当たり前のデートなど

私にはやはり程遠かったのだ

 

長蛇の列に並ぶその間、発作が起きないか

起きたら何を言い訳に逃れようか

 

そんな事ばかりを、考えていた

 

なんて浅ましい人間だろう

私は、嘘と一緒に生きているみたいな

卑怯者だ。

 

だけど、私があの時笑ったのは

嘘ではなかった

心から、楽しかったのだ

 

けれど同時に

切ない予感をはらんだ甘い気持ちが

ぐっと私の中に押し寄せて

あっという間に心を埋め尽くしてしまった

 

私の心にはまだ、そんな余裕はないのに

 

私は浅ましい人間だ。

 

 

仕事も趣味も、自分の出来る範囲でやればいい

自分に合わせていればいい

 

でも恋とか愛とかは、そうではない

 

 

電車に乗れなかった日々のような苦しみが

私の中にどっと流れ込む

 

当たり前のことができない私

当たり前の幸せを与えられない私

 

それがひどくつらく、

口の中でいつまでも苦味をまとった。

 

 

「いつか目が眩むような恋がしたい」

 

何度も紙に書いては破り捨て

声に出しては嗚咽に流し込んだ

 

日々はただ、残酷だった。

 

 

「.一緒に電車に乗れない」

そう言った私に

「それでも私を選んでくれてありがとう」

と答えた彼女

 

当たり前のことができない苦しみをよく知っていた彼女は

そんな言葉を、当然のように私へ贈った

 

ええ、そうなの
それでもあなたを、選んだの

 

その苦しみを持ってしても

あなたと向き合いたかったの

 

 嫌われても

軽蔑されても

呆れられても

それでもあなたを写したかった

 

残酷なのは日々ではない

苦しみと向き合いきれない、私の弱さだ

 

 

苦しくても

息ができなくても

 

何かたった1つの

曖昧に揺れる、掴みたいもののために

私は向き合わなければいけない

 

そしてそうまでしてでも向き合いたい人を

きっともっと私は、大切にしなければいけない

 

 

例えばそう、

あの胸元のようなものを

 

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photo by takayanagi

 

私と病気と闘病

 

写真が、楽しくない

 

 

こんなことは初めてで

今まで私の全てだったそれが

見るだけで苦しいものに変わってしまった事が

悲しくて

悔しくて

 

だけど理由は、なんとなく、わかっていた。

 

 

ここ数週間

退学届を出し、終わらせたと同時にすぐ

出願届を作る日々で

 

それは私にとって大きな負担で

向き合いたくないことに

目をそらして今すぐにでも逃げだしたいことに

 

誰かに頭を押さえられて

無理やりに向かい合わせられてるようで。

 

嫌だ嫌だともがけば髪が引きつり

痛みが増し

 

もうやめたいと泣きじゃくれど

嗚咽に埋もれ

涙はぼたぼたと白い用紙に落ちるだけ

 

自分が選んだ道だろと責め立てる

自分の声ばかりが頭にこだまして

 

息はどんどんできなくなって

心は、一杯一杯で。

 

 

大好きでい続けた写真を楽しむ余裕さえないほど、心は何かで溢れかえっていた。

 

 

 

不安が止まらない。

 

私にできるのか、ちゃんと卒業できるのか

また失敗して、退学になるのではないか

また、あんな、悔しい思いをしなければいけないのか

怖い、怖い、怖い

 

もう今までと同じようには、いられない

 

 

悔しさが忘れられない。

 

私以外の誰かが望んだ退学は、

未練ばかりが残って、悲しみは忘れられない

もっともっと、時間がかかる

 

そんな簡単には、忘れきれない

 

 

ここ数日間

私は自分に、たくさん嘘をついた

 

もう大学に未練なんてない

私は明るい夢がある

通信が楽しみでしょうがない

早く勉強がしたい

 

 

嘘だ

嘘だ

嘘だ

 

 

大切な友達にさよならを告げるのが寂しい

不確かで曖昧な目標しかない

通信は不安で溢れかえって

働きながら勉強し、写真に向き合う時間が減ることは悲しいくてたまらない

 

もう後戻りはできない

時間は待ってくれない

 

昔の大学への未練や悔しさなんて
そんな簡単に消えるわけないのに
もう次へ進まなければいけない

 

 

苦しい

痛い

 

進みたくない

ずっとここにいたい

 

まだ私は、戦えない。

 

 

だけどもう、

何も失いたくない

何も奪われたくない

 

そのためには、

進まなければいけない

 

たとえ息ができなくても

たとえサヨナラをいう日々でも

たとえそれが、微かな可能性でも

 

私には、それにかけるしかない

 

 

すがりつくような思いで

私は、今日を生きる

 

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photo by noa

 

 

私と病気と推進力

 

昨晩、お母さんと2人でケーキを食べました

 

小さな小さなケーキ

 

「大っきいのは、また卒業した時」

そう、約束をしました

 

 

昨日2017.2.21をもって

私は東洋大学を卒業しました。

 

正確にそれは

「私以外の誰かが望んだ退学」

 

書類を提出した日は、泣きませんでした

前日に枯れるまで涙は流していました

 

ゼミの先生に手紙を書いて

大好きだったカフェでご飯を食べて

 

「さよなら」を大学に向かってつぶやいて

 

私は前へ、進みました。

 

朝、起きて

気を抜けば、

後ろを振り向けば、

大きな不安や悲しみに飲まれそうになりました

 

それでも孤独はなかった

お疲れ様とおめでとうをたくさんもらったから

どんな私でも

受け止めてくれる人が必ずいたから

私は今日、笑っています。

 

 

大切なのは

これから向き合い続ける覚悟を持つこと

そして

帰ってこれる場所を自分で作っておくこと

 

 

そうすればどんな壁も

きっと突破できると

 

空の青におののき

世界の広さに萎縮し

社会の流れにのまれそうになっても

 

血汗流して這いつくばって

何度も何度も、食らいつくこと

 

そうして痛かったねと頑張ったねと

倒れたあなたを助け起こしてくれる人を大切にしておくこと

 

大切な人を増やすため

曲がらず、開き直らず、ひねくれず

まっすぐ素直に入られるように努めること

 

 

簡単なことはひとつもなくて

 

でもそれでも、可能性はしっかりある

 

 

今の私だから

心から自信を持って、言えること。

 

 

そして

やめてほって置いて、と1人になろうとする前に

両親ときちんと向き合うこと

 

何度も喧嘩してもいい

汚い言葉をぶつけてしまってもかまわない

 

親は必ず許してくれる

 

 

 

昨日、中学の友達とその子供に会った時

 

彼女の世界の中心は

恐ろしいくらいいつも子供だった

 

お茶でもしようか、となった時

「あ、ミスドある。ミスドでもい?この子ドーナツ大好きなの」と言った彼女

 

私たちが遊ぶ時

何食べようとなるのは、自分たちの食べたいものだ

それが彼女はどうだろう

自然に子供の好物から選んだ

 

ハッとした

 

どこの家庭でもよく聞く、母の言葉

 

「今日のご飯何食べたい?」

 

ああそうか、今も変わらず

私もその愛を受けているのか

 

もちろん献立が浮かばないからという理由もあるだろう

それでも、彼女たちは口癖のように問う

私たちが食べたいものを

 

戦う子供とその親の関係は

とても窮屈で

時に恐ろしいほど残酷で

 

それでも計り知れない繋がりが

きっとそこにはあるはずだから

 

 

悲しくもなる

 

涙が止まらなくて仕事に行かなようなクソみたいな日もある

 

自分の惨めさに、失望するときもある

 

底の底までおっこちて、生きるのが死んでるのかわからない日々もある

 

帰る場所が見つからなくて

どこにも行けない何もないと思う日もある

 

何も考えたくなくてお布団から出れない時もある

 

自分の意思とは関係なく

汚い言葉が止まらなくなってメンヘラなんて言われる日もある

 

お前はクズだと、冷たい視線を浴びることもある

 

足も心もボロボロになって

膝から指から血が滴ってもう動けないと

唇噛み締めて、両手を固く握り締めて

涙さえ枯れることもある

 

それでも

 

何度も何度も何度も何度もうちくだかれたって

 

何度も何度も何度も

 

何度だって、這い上がってみせろ

 

 

大丈夫

好きな形で好きな速さで好きな方は飛ばそう

 

君の世界は、君の思うようにできてるよ

 

 

今日も、いってきますをf:id:yoco_0531:20170222123124j:image

 

photo by takayanagi

 

私と病気と退学届

 

終わらせるなんて

簡単な事だと、思っていた

 

 

必要な書類はもう揃っていたし

背中を押してくれる人たちもたくさんいた

 

次に進む道(転学先)も決まっているし

やりたいことだってはっきりしている

 

なのに私は今

退学届を握りしめたまま駅のホームで動けない

 

家を出る時

母が背中を撫でてくれた

 

「あんたがどれだけ苦しい決断をしようとしてるのか、わかってるつもりだから。

だからいつでも、帰っておいで」

 

うん、と言葉に出さずに頷いた

 

家を飛び出し自転車をぐんと漕いだ

 

ああ、言葉に出さなくてよかった

 

息をしようと口を開いただけで

涙が吹き出した

 

向かい風に涙は一瞬だけ頬を伝っては

すぐに宙へと舞った

私はそれを追い越していく

 

頬を撫でる風はもう暖かい

私の思いとは関係なく

春が、せまる

 

 

願書を出すには、卒業しなきゃいけない

ふたついっぺんには、手に持てない

 

 

1人ぽっちの、卒業式

 

思い出は散り散りのかけらみたいに散らばって

アルバムになんかまとまりはしない

 

涙を流したって

笑い飛ばしてくれる仲間もいない

 

おめでとうと行ってくれる先生も

卒業証書もありはしない

 

あるのは父の一筆と印のみがある

薄い紙切れ一枚だ

 

誰も祝ってなんてくれない

むしろあるのは「退学者」の称号だけ

 

嬉しさのかけらなんてみじんもない

私以外の誰かが望んだ、卒業式

 

 

どんなにあがけど

どんなに笑い飛ばしても

どんなに幸せでも

結局「普通」になんて、敵いやしない

 

 

何が悲しいと言われても、わからない

 

進む自信はあったんだ

ただそこに長い年月が横たわっていて

私を先に進ませてくれない

 

手に入れる決断は容易くても

手離す決断はこんなにも

心がいたい

 

 

春なんて

来なければいい

来なければいい

来なければいい

 

ずっと冬のままでいい

冷たく透明な、雪のままでいい

 

 

 

「よこさんの周りは、笑顔で溢れてますか」

 

優しい彼の言葉に私は頷けない

 

私は身近な大切な人にさえ

困ったような悲しい顔をさせる

弱い弱い人間です

 

 

間違えちゃいけないんだ

 

これは進む事に対する、不安ではない

 

手離す事に対する、悲しみだ

 

 

それほど私にとってこの三年は

大切だった

 

大切だったんだ

 

ああ、私は

こんなにも悲しめる人間だったのか

 

三年

 

私が普通を謳歌していた

素晴らしい日常

 

もう2度と戻らない

儚い日々

 

 

私は私から

それら全てを手放します

 

 

私はここにいるわけにはいかないから

先に行くね

 

 

休学ではない

退学という道を

 

さようなら

もう会わないよ

さようなら

 

 

大丈夫

きっといつか笑って過ごせる

大丈夫

 

大丈夫

きっと大丈夫

 

信じよう

信じるしかないんだから

見えない光は、夜には必ず見えるから

 

 

人は決断しながら生きている

それは幸福な決断もあれば

悲しい決断もある

 

手離す決断

失う決断

諦める決断

辞める決断

旅立つ決断

 

それらははたから見たら

停滞で、後退かもしれない

 

それでも悲しい決断は

幸福な決断よりよっぽど覚悟がいる

 

見えない光を信じる覚悟

周りからの視線を受ける覚悟

もう戻れない覚悟

 

そしてその覚悟を決める人々は

きっと何より尊く、逞しく、強く

まっすぐに、優しい

 

 

 

退学なんて、したくない

 

ずっとここにいたい

 

決断なんてしたくない

 

いつまでも、曖昧でいたい

 

 

でも私は

 

私は

 

進まなければ、いけない

 

 

やりたいことがある

見返したい人がいる

守りたい世界がある

 

だから

 

行ってきますと、さようならを

告げる覚悟を

私は、持たなければいけない

 

明日はこの紙切れを

ちゃんと出せますように

 

 

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photo by ryoma

 

 

 

 

私と病気とばあちゃん

 

 

私がまだ中学生だった頃

私はおばあちゃんに大量の写真を送りつけたことがあった。

 

それは中学の修学旅行で

私はデジカメ(ただの一般家庭機)片手に

いろんなものを撮った

 

友達の写真でもないその写真のほとんどは、

しょうもないものばかりだった。

 

てんとう虫、シロツメクサ、雲

 

そんなものばかりを詰め合わせた写真を

大量に送った。

 

今思えばなぜあんなことをしたのかわからないただ写真を撮るとかがとにかく楽しくて

その楽しさを誰かと共有したかったのだと思う

 

そんなしょうもない紙切れの詰め合わせを受け取ったおばあちゃんは私に言った

 

「あんたがこういうことに目を向けられる子で何かを感じられる子でえかった」

 

小さな私には、その言葉は十分なほど

私の背中を押した

 

 

それから高校生の時

体を壊しながら受験に挑んだ時

私は辛くて岡山に帰った

 

帰り道、サヨナラの駅のホームで

おばあちゃんは私に言った

 

「小せえ体でよお頑張っとるなあ」

 

頑張ることが当たり前の世界で

褒められることなんて全然なくて

不意に向けられたその言葉に

私は涙が止まらなくなった

 

 

そして今回の帰省で

おばあちゃんは私に幾度と言った

「車に乗れんけえなあ」

 

 

うるさい

 

そう思った

 

 

言葉にはしなかったけれど

私の心は確実に痛みを帯びた

 

それでも、わかっていた。

 

それは嫌味や差別の言葉ではなかったこと

ただただ「寂しい」の裏返しであったこと

 

一緒に遊びにいけなくて寂しい

どこにも連れて言ってあげれなくて悲しい

 

全部全部、私を思って溢れた言葉だったこと

 

 

じいちゃんは、認知症が進んでいた

それでも私の名前を覚えていてくれた。

 

来たことも帰ったことも忘れちゃうから

私が帰った後も

じいちゃんは今頃ずっと言ってるはずだ

「瞳はもう、帰ったんけえ?」

 

それで私のために何度も悲しくなって

何度も涙を流すんだ

 

毎日のことを忘れないように

書き留められてるじいちゃんの日記には

私が来た日に

「今日から瞳もおるよ」と書かれていて

なぜか訳もなく泣きそうになった。

 

 

さよならの時

振り向かないと決めていたのに

振り返ってしまった

 

やはりそこにはまだ

小さくなったばあちゃんがいた

 

 

なあばあちゃん

私、何もうまくできないんよ

 

みんなみたいに生きれんし

電車さえ上手く乗れんのや

 

それでも

何度だって、会いにいくけえな

頑張ってら会いに行くけえな

 

だからどうか元気でおってよ

 

 

私の後ろ髪を引く全てのものたちよ

 

どうか彼女たちを、お守りください

 

 

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私と病気と変わった田舎

 

帰れば、眠れると思っていた。

 

 

朝7時、隣で起き上がる音がする

私はそこではじめて眠りにつく

 

午前11時、雷じじ様の大声がする

耳が随分遠くなった雷じじ様は大音量で

私を揺さぶり起こす

 

眠い目こすって正午、階段を降りれば

怒涛のばば様の憎悪の波にのまれそうになる

じじ様のことでたまった疲労は

私に向けられた

 

 

田舎に帰れば、眠れると思っていた

 

でもそこに待っていたのは

変わってしまった田舎だった。

 

じいちゃんは認知症が進んでいた

耳が随分遠くて、家の中は常に大きなテレビの音がしていた。

 

ばあちゃんはやっと終わったひいばあちゃんの介護もそこそこに、じいちゃんの相手をしていた。

まるで「悲劇のヒロイン」みたいに、

私に自分の話をした。

 

そしてことあるごとに、

私の異常性を突きつけた。

 

「車に乗れんけえな」

 

何度も何度もそう、繰り返した。

 

そして「自分は忙しい」のだと

「だらだらする事は醜いこと」だと

幾度となく、突きつけられた。

 

私はここに、休みに来ているのに。

まるでだらだらするのが「いけないこと」だとでも言うように。

 

 

悪気はないのはわかっていた。

むしろ2人をいたわるのが私の役目だとも

知っていたつもりだった。

 

それでも、あそこは東京より

もっともっともっと、息苦しかった。

 

家の中はいつも寒くて

ばあちゃんは愚痴をこぼし続け

じいちゃんは大きな音を流し続けた

 

私はいつもより、薬を多く飲んだ。

 

 

そして私は逃げるように電車を乗り継ぎ、

尾道へ来た。

日帰りのつもりだったが、急な思いつきで

ゲストハウスへ泊まっている。

 

ばあちゃんは心配していた。

 

東京にいる母さんと父さんから連絡がきた

母さんからの電話を取ると

私は泣いてしまった。

 

ばあちゃんのこと、じいちゃんのこと

眠れなくなったこと

心が苦しいこと

早く東京に帰りたいと思ったこと

 

私は全部、母に話した

初め怒り口調だった母も、途中から声色を変え

そうかそうかと話を聞いてくれた。

 

 

ゲストハウスに泊まってみると

驚くほど心地がよかった。

 

「私に必要なのはこれだった」と

やっと気づいた。

 

一人、夜道、港の造船所、共同キッチン

よく泡立つシャンプー

そして、静寂

 

 

五感を十二分に使って息をした

 

夜の港町の風を、お腹いっぱいに吸い込んだ

 

 

変わっていくことがある。

 

それは当たり前で、どうしよもなくて

誰も悪くないことだ。

 

誰も悪くないからこそ、みんなその悲しみや不安をどこにぶつけたらいいのかわからない。

 

そうして糸が緩み弾けては

誰かを傷つけ、また悲しみばかりが増していく。

 

ばあちゃんも、じいちゃんも、

そしてきっと私も

誰も、悪くなかった。

 

 

私が変わってしまった時だって

きっと本当は誰も悪くなかったんだ。

 

母さんも父さんも、そしてきっと、私も

 

 

私は変わってしまった人間だ。

 

だから変わってしまった本人の痛みを

分かち合うだけでなくて

そこにできる誰のせいでもない「悲しみ」を

受け止められる人に私はなりたい。

 

変化は時の流れが解決してくれるけど

そこに広まっていく悲しみを

家族や友達に伝わる誰のせいでもない悲しみを「苦しかったね」と受けられる人でありたいと

 

初めてそう、思ったのです。

 

 

田舎は、苦しかった

変わってしまっていた。

 

ねえそれでも私は

田舎が、

ばあちゃんが、じいちゃんが

だいすきだよ。

 

 

今日はこのへんで

 

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